偶然の旅人
買いそびれていた新潮を図書館で受け取り、美容院へ向かう。
三寒四温というけれど、今日の寒の戻りは相当なもので、ちらちらと
雪が舞う。空は冬のそれに逆戻りしていて、重たいグレーだ。
美容院はなぜかハワイアンソングを流している。
いつもの担当の人は「寒いですね〜」と迎えてくれる。
ハワイアンソング、半袖、雪、三ヶ月ぶりの美容院。
しばらくファッション雑誌をながめていたが、カットなど一段落して
カラーに入ったので「偶然の旅人」を手に取った。
村上春樹の短編。
お話はとても淡々と進んでゆく。
主人公は41歳のピアノ調律師だ。
彼の中にある「孤独な優しさ」の輪郭が淡々と語られてゆく。
そしてその彼の匂い(洋服や髪や持ち物にしみ込んでいるような)が
匂いたったような気がした瞬間に、
悲しみをこらえているときの少し笑ってしまうような、涙をこらえている
ときの嗚咽をすこしずつ心に沈めているような、そんな時がふと手の
ひらからこぼれ落ちててしまい、涙が溢れてきた。
そこから最後の一行を読み終えるまで、静かに泣いた。
髪を静かにといていた人は、何も言わなかった。
春は花粉症の季節だからね。
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