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Nov 15, 2004

PA220019.JPG 


 二月とは思えない程の暖かさだった。
家を出て来た朝方はあんなに冷え込んでいたのに。
霜柱が溶けて、中庭の芝生はキラキラと黄金に光っている。

 あまりリアリティのないままに受験シーズンがやってきて、
午前中の試験が淡々と人ごとのように過ぎていった。
 まるで夢の中で、「これは夢だ!」と
はっ、と気づく時みたいに昼休みになった。
 時間が伸びたり縮んだりしているような、現実味のない
ひとりぼっちのわたし。

 昼休みに受験生たちは学食や教室でそれぞれお昼を取る。
 わたしは中庭のベンチに出て、自分でつくってきた卵とハムの
サンドイッチを食べていた。
自動販売機で買った缶コーヒーを飲みほして、缶を灰皿に
セーラムに火を点ける。午後からは小論文のテストがあるのだ。

 暫くすると二つとなりのベンチに座っていた男の子がこちらへ
やってきた。
「火、貸してくれる?」
 ライターを渡すとわたしの隣にそのまま座った。
「きみ、浪人生?」

「うううん、違うよ。どうして?」

「いや、タバコ。」

「あ、そういえば未成年。」

 手をかざすと血管が透けて見えそうな陽射し。

「今日は暖かくてよかったね。」

「ほんと、雪にならなくてよかった。」

 しばらく他愛ない言葉をかわす。

「もし二人とも本命に受からずにここに入学したらよろしく。」

「うん、そしたら遊びにいこう。」
 
 わたしは赤いチェックのスカートを履いてた。 そして編み上げのブーツ。

「きみのそのブーツなんだけど」

「脱ぐとき大変じゃない?その紐をひとつひとつ解くの?」

「そうだよ。誰かが解いてくれるといいんだけど。」

 四月になってわたしはその学校に通うことになった。
彼は本命の大学に受かったのだろう。電話番号もなくしてしまったし、
あの日以来逢う事はなかった。
 紐を解いてくれることも。

 何よりももう春になっていたのだから。
 ブーツは必要ないくらいに。


*久しぶりに夢の中でタバコを吸いそうになった。
夢の中でも吸うのを押しとどめたけどね。
一定のサイクルでニコチンの呪縛はフラッシュバックしてくる。
夢の中にも侵入してくる。
フラッシュバックする映像を数えていたら、大学受験の日を思い出した。
音や匂いの記憶を超える、ニコチンの記憶。

タバコをやめて一年と10ヶ月。快適。
二度と戻りたくない。

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Comments

かなり別の方向に誤解を受けそうなコメント(笑)

Posted by: cocoa | Nov 16, 2004 07:02 PM

「解けない紐の想いで」は良いですね。こういうのはいくつになっても、おっさんになるほどに、昨日のことのように思い出しますね。合掌。

例の場所で、厳守さんが背中を踏まれたい!っておっしゃってます。紐付きのブーツが良いかもしれません。
あとひとつ。

Posted by: くまおま | Nov 16, 2004 01:20 PM

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